剪定された桃の木から生まれた“福咲和紙”

(株)三和紙店 咲色 SAKIIRO プロジェクト

 東京駅で、あるポップアップショップを見かけました。和紙でつくったアクセサリーのお店です。お話しを聞くと、その素材の和紙はコウゾに桃の木の皮を入れてつくられているとのこと。おもしろい試みだと感じ、産地の方にお話を聞きたくなりました。

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桃から生まれた和紙を使ったアクセサリー

桃農家を応援したい

 どのような経緯で、いつ頃から桃の木で和紙をつくることを考えたのか。この「咲色 SAKIIRO」プロジェクトの責任者でもある、三和紙店の小野光代さんを訪ねました。
 「今の仕事をする前に、農業関係の仕事をしていました。福島県は桃の大産地で、桃畑を目にする機会も多かったです。桃の実をおいしくするために、冬場に枝を剪定するのですが、切られた枝はこれといった使い道もなく、細かく砕いて畑にまくか、焚き付けにするだけでした」
何かこれを利用できないかと思っているうちに、業界誌で竹をリサイクルして紙をつくっていることを知ったそうです。
 「2016年頃でした。かたい竹が紙になるなら、果物の木も紙になるだろうと考えました。この頃はまだ、震災による農産物の風評被害がひどく、桃も売れないし単価も低かった。そこで少しでも農家さんを応援できたらと思いました」
このプロジェクトを後押ししたのは、他にもあるといいます。
 「もちろんエコのこともありますが、私たちの会社は果物の資材も扱っており、その特色を出したかったこともあります」

桃の剪定作業は11月頃に行われ、大量の枝が廃棄されていた。桃の剪定作業は11月頃に行われ、大量の枝が廃棄されていた。

 

ピンクの和紙のネーミングを“福咲和紙”に

 当初は印刷できる紙を目指したものの、なかなか請け負ってくれる業者が見つかりません。
 「そんな時、知り合いから手漉き和紙の職人を紹介されました。それまで手漉き和紙は、思いもしませんでした。弊社では取り扱っていない商品ですし、どうなんだろうと…」
請け負ってくれたのは、鮫川村の齋須貫一さん。桃の枝を持って行ったら、ピンクの和紙ができあがりました。すると、その和紙を見た紙関係業者の仲介で、山梨県の山一和紙工業さんが機械抄き和紙を製造。一挙にプロジェクトが進んだのです。
 「桃の手漉き和紙は、コウゾと桃の剪定枝の皮を混ぜ合わせて伝統的な方法でつくりましたが、自然に赤みが出るので珍しい。ですから特許申請を行い、使う人に笑顔を咲かせたいという思いから“福咲和紙”というネーミングにしました」
この和紙を使って、桃の香りがするハガキ、封筒、ポチ袋、コースター、御朱印帳などの商品が展開され、大型の本屋さん、道の駅、和紙の雑貨を置いている店、ポップアップショップなどで販売しています。また、ふるさと納税の返礼品にもなっています。もともと三和紙店さんは小売りをしていないので、販路の拡大は次のテーマ。また、和紙そのものも使っていただけるようにしたいとのこと。
 「テレビなどのマスコミに取り上げていただき、反響は上々です。仙台のさとう宗幸さんの番組でも取り上げていただき、ずいぶん電話がかかってきました(笑)」

画像の代替テキスト桃の香りのするハガキ
画像の代替テキストポチ袋
画像の代替テキスト表紙にコーティングした手漉き和紙、本文に機械抄き和紙を使った「桃から生まれた御朱印帳」
画像の代替テキスト販売の様子

福島の手漉き和紙文化を甦らせたい

 福咲和紙のおかげで、福島県内の手漉き和紙職人と知り合うことができました。
 「多分、福島は北海道、東北辺りで最大規模の手漉き和紙産地ではなかったかと思います。養蚕業が盛んだったので蚕卵紙も必要だったし、織物を包む畳紙とか繭を入れる袋なども必要だったでしょう。会津とか二本松はお城があり城下町があったので、障子や襖、それに書状、大福帳などいくらでも需要があったと思います。また、江戸にも和紙を送っていたそうです」
ただ、どこの産地も後継者不足。これは全国的に変わりません。
 「メディアで福咲和紙が紹介され、福島が手漉き和紙の産地であったことが認識され始めた段階です。伝統工芸は忘れ去られると消えていくのみ。それを復活させることが、復興の希望にもなると思います」
最初は桃農家さんを応援したいと福咲和紙を開発した小野さんでしたが、それに加えて福島県の手漉き和紙の応援も兼ねています。
 「例えば3.11のキャンドルナイトは、県内の和紙産地にランプシェード作成を依頼して展示させていただきました。それぞれに好きな言葉や絵を描いてあり、ライトアップすると個性的でとてもきれいでした。こうしたイベントを通じて、手漉き和紙ファンが少しでも増えたらと願っています」

福島には、桃のない時期にも桃から生まれた和紙があります。福島を感じられる和紙は、農作物のような輸入制限もなく、国を超えていけます。インバウンドにとっても魅力的でしょう。果物の木から和紙をつくるプロジェクトは、もっと大きな実りを福島にもたらすかもしれません。

独特の風合いがあり、桃を思わせるやさしい色味の福咲和紙。独特の風合いがあり、桃を思わせるやさしい色味の福咲和紙。

 

 


株式会社三和紙店

株式会社三和紙店は、創業80年以上の歴史を重ねる福島の紙卸売業者。果樹の枝や幹を使用した「福咲和紙」の開発のほか、各種印刷用紙、包装用紙、ファンシーペーパーの他に、農業用資材も取り扱っている。

福島県福島市市柳町3-30
https://snw3.co.jp/index.html

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