和紙コラム vol.6和紙で贈る〜気持ちを伝える包み方/贈る文化・折形〜
株式会社WACCA JAPAN 森崎真弓
こんにちは、WACCA JAPAN の森崎です。 和紙コラム連載は、早いもので最終回の6 回目を迎えました。
最後のテーマは「和紙で贈る」です。 私が和紙を深く知るきっかけとなった、贈り物の文化「折形(おりがた)」についてのお話をさせていただこうと思います。 「折形」という言葉は、聞き覚えがあってもそれが何を意味するのかはよく分からない、という方も多いようです。 「折形」とは、古来より日本で行われていた「礼法」の一種です。贈るものを和紙で包む方法や儀式で用いられる飾りの紙を折る方法のこと。一つひとつの作法に意味があり、相手を思い尊う気持ちが込められています。鎌倉時代に始まり、室町時代に武家の礼法として確立されました。江戸時代には庶民の間にも広まり、遊びとしての「おりがみ」にも発展します。戦後は学校の教科書からも「折形」は消えてしまいましたが、今ではご祝儀袋やのし紙などにそのルーツを見ることができます。
「折形」そのものの習慣は遠い存在となりましたが、その精神は私たち日本人の中に定着しています。お祝い事や弔事などのあらたまった場面では、必ずのし紙をつけて贈り物をします。お金を渡す時はそれがたとえ事務的な支払いであっても、封筒に入れるか、あるいは封筒の用意がやむお得ず間に合わない場合でも「裸でごめんなさい」と一言添えるのは、中身をそのまま渡すことは失礼になる、そして包むことで礼を尽くす、という折形の考え方に基づいているからです。
少し難しいお話になっていまいましたが、「和紙でものを包む」ことは、清潔で、丁寧で、美しい印象を与えてくれます。私はただその美しさに魅了され、和紙の世界へ引き込まれて行ったのです。
それでは皆さんにいつくかの折形とその楽しみ方をご紹介いたします。
上の写真は「草花包み」です。草花の花材を贈る包み方です。現代では実用性の低い折形ですが、折紙の造形として美しく、インテリアの装飾として楽しんでみるのもよいかもしれません。
こちらは3 回目のコラム「お正月と和紙」の中でもご紹介した「お箸包み」。「贈る」のテーマからは少し離れますが、折り方や紙を変えることでいろいろなバリエーションができるお箸包みは、現代でも楽しむことができる折形のひとつです。上の写真はWACCA JAPAN オリジナルの金縁を施した懐紙を使用しています。
3 つ目は「紙幣包み」。こちらは内包みになりますが、事務的な支払や立替金のお返しなどの場合にはそのまま紙幣包みとして使うことができます。また、市販品のご祝儀袋の内包みは、封筒型の場合が多いので、内包みだけでも半紙で手ずから折ることで、お祝いの気持ちを込めるのもよいのではないでしょうか。
最後にご紹介するのは「残菓包み」です。残ったお菓子を持ち帰っていただくための包み方です。手土産のお菓子を複数の方に配りたい時にも重宝します。お菓子以外でも小さなものを少しだけ、気軽に差し上げたい時に便利な折形です。
余談になりますが夏目漱石の小説「こころ」の中に、この「残菓包み」と思われる所作が登場するシーンがあります。主人公が先生宅を訪ねた際、西洋菓子(カステラ)を奥様がサッと紙で包んで持たせる、というシーンです。包み方は上の写真とは異なったかもしれませんが、用途はまさにこの「残菓包み」です。主人公「私」はそれを袂に入れ持ち帰ります。ここは小説の中で象徴的なシーンでもあるので、記憶にある方も多いかもしれません。気になる方はぜひ読み返してみてください。
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全6 回の和紙コラム、いかがでしたでしょうか。 最後までお付き合いくださりありがとうございました。 またどこかで、和紙を通じて皆さんとお会いできる機会がありましたら幸いです。