野菜と果物からできた紙、「Food Paper」
五十嵐製紙
各地の和紙工房を取材した時、ほとんどの職人さんから和紙の原料が不足していることをお聞きした。そこで産地だけに頼らず、自分たちでも楮や三椏、雁皮などを栽培しているという話が出てきた。なるほどそれは大変だと思っているところへ、意外なニュースが飛び込んできた。それは、以前お話をうかがった越前和紙の五十嵐製紙さんについてのニュース。なんと廃棄される野菜や果物から紙を作るという。しかも紙文具として商品化されたというニュースだった。
アイデアの源は次男の自由研究
このリユースペーパーともいうべきアイデアの源は、五十嵐匡美さんの次男優翔さん(中3)が小4から始めた自由研究だった。身近な食べ物、例えば畑でとれる野菜や果物、おつまみのピーナツから、紙ができるかを調べたものだ。毎年調べたファイルは何冊にも及び、試作した紙が保存されていた。ただ紙を作るだけでなく、その研究は紙の色や吸水性、強度、摩擦力などにも及んでいった。
五十嵐匡美さんと優翔さん
優翔さんの自由研究
事業化のきっかけは県主催のブランディング講座
2019年に福井県で開催されたブランディングセミナーで、匡美さんと鯖江市のデザイナー新山直広さん(TSUGI代表)がタッグを組み、新しい和紙製品のアイデアを考えることとなった。その時、いろいろと模索する中で出てきたのが優翔さんの自由研究のこと。新山さんはそれに強くひかれ、にわかに新しい和紙製品のコンセプトが見えてきた。こうして息子さんの研究成果をもとに、伝統的な手漉き和紙の技術と食べ物という新たな材料を掛け合わせることで「Food Paper」は生まれることになった。伝統工芸士の匡美さんが商品化に向けて本格的に取り組む。匡美さんによると、楮との配合を考える参考書として十分役立ったという。
「最優秀MVP賞」を獲得し、商品化へ
セミナーの最終提案は好評で、東京の展示会に出展できる「最優秀MVP賞」を獲得。商品化への道が開けた。「Food Paper」を使用した商品の第1弾は、ノート、メッセージカード、サコッシュ、小物入れ、ストッカーの5点。いずれも、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、ミカンをはじめ、数種類の野菜や果物の皮と楮や麻を混ぜて漉き込んだもの。 洋紙とは異なる風合いで、野菜や果物の色や質感が感じられる。
持続可能×伝統×教育
「Food Paper」は、フードロスとして捨てられる野菜や果物を使用している。そして、伝統的な手漉き和紙と同じプロセスでつくることができる。また機械抄きにも対応できるので量産化も可能になる。つまり、環境にもやさしく、和紙で培った伝統的な技法を用い、子どもたちにも身近な紙文具として、「Food Paper」は紙の可能性を広げていく。社会的にも産地的にも意味があり、未来の定番紙になっていくかもしれない。
株式会社 五十嵐製紙
- 〒915-0233
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- http://www.wagamiya.com