インテリア向けの創作和紙や、アーティスト向けの和紙をもっと増やしたい
五十嵐製紙 五十嵐康三氏
「私で3代目です」という五十嵐康三氏。子どものころから、常に身近に和紙を見て育ってきた。全盛期には90社余りあった越前市五箇地区の和紙作りの会社も今や60社ばかり。それでも、越前和紙は元気だと語る。確かに越前和紙は生産量、携わる職人の数、どれをとっても他の産地と比べて遜色ない。しかも、越前和紙は種類が豊富。楮、三椏、雁皮、麻などの素材から、フスマ、壁紙、包装用紙、タペストリー、賞状用紙、画仙紙、日本酒ラベル、ハガキ、名刺類など、多様な製品が生産されている。
新たに国の重要無形文化財に指定
「ユネスコの無形文化遺産から外れた時はショックでした。お客様から越前和紙は、なんでだめなのかと結構言われました」
ユネスコの無形文化遺産に、美濃和紙、石州和紙、小川和紙が登録されたのは2014年。なるほど、ブランド力があり、生産量も多い越前和紙が登録されなかったのは不思議な気がしていた。
「実は、ユネスコの登録は保護や継承を目的としていて、知名度や生産量は関係ないです。ただ、越前はのんきやった」
ショックと語るだけあって、福井県和紙工業協同組合では早速保存団体を作り、雁皮の「越前鳥の子紙」が、2017年に国の重要無形文化財に指定された。栽培は難しいといわれる雁皮だが、組合では資源保護のため昨年から栽培を始めている。
海外アーティストからも発注される紙
「私どもは2m50cm×10mまでなら、張り合わせでなく1枚ものを手漉きで作ります。これだけ大きなものは他ではやっていません」
大判の和紙を漉くときは、長い桁を使い、4人から5~6人で行う。掛け声をかけながら、呼吸を合わせる。なかなか難しそうに感じるが、これは五十嵐製紙の大きな武器だ。こうして漉かれた大判の和紙は、伝統工芸士である奥様と娘さんによって創作和紙に加工されて、ホテルやレストラン、公共施設のエントランスやロビーを飾っている。
一方、海外のアーティストからも和紙の依頼がくる。ある世界的に有名なアーティストは、1m50cm×2m60cmくらいの紙3枚1セットを、エッチングに使っている。
「アメリカでは結構人気のようです。和紙の風合いが好評で、ミミも残したままです」
他にも作品によって紙の種類や大きさも変わり、そのアーティスト用だけに10何種類か用意して対応している。こうした依頼は今後も増えていきそうだ。
和紙製品の可能性を開く
一戸建てからマンションへ、住まいの形態が変わり和室が少なくなると、フスマも少なくなる。そうすると五十嵐製紙の主力であったフスマ紙の需要も減っていく。そこで、20数年くらい前から和紙ガラスや和紙あかり、タペストリーなどの製品開発を始めた。
「和紙ガラスは平成4年に、横浜の公文書館で合わせガラスの中に和紙を入れるという企画に参加しました。同じ時期に、加賀友禅をガラスに挟んでいたのを見ました。それで、ガラスを加工しているところへ行き、一緒にやろうと話を持ちかけました」
和紙ガラスは、樹脂フィルムを貼ることで万が一割れても飛散防止にもなるし、紫外線をカットするUV機能もある。そして何よりも、和紙を挟むことによって、部屋全体がやわらかい雰囲気になってくるという。建築なら施主さんの好みや設計図面に合わせてオーダーメイドとなり、ほとんどが飲食店か公共の建物だが、個人のお宅も数軒あるそうだ。
熱くならず、球切れの心配もないLEDの普及で新たな製品が生まれた。
「10年くらい前から和紙あかりをやっています。明るさを追求するだけでなく、温かい安らぎのある明かりも必要だと考えました」
さらに、もっと光を通すものということで、5~6年前に県の工業技術センターと一緒に光拡散和紙を開発。住まいの変化やLEDなどの技術の進化で、こうした動きがますます加速化している。
手漉きの大判和紙という強みを持つ五十嵐製紙。和紙ならではの特性をうまく活かした製品開発も順調で、今後の発展も期待されている。
五十嵐製紙
創業大正8年。主力は襖紙だが、伝統工芸士による手漉き大判創作和紙(装作和紙)は、「和紙で絵を描くがごとく」漉いた作品で高い評価を得ている。さらにガラスとのコラボレーション「和紙ガラス」や、「和紙あかり」(照明)など、積極的な作品・商品展開を手がけている。
株式会社 五十嵐製紙
- 〒915-0233
- 福井県越前市岩本町12-14
- http://www.wagamiya.com