日本の文化を伝える、家業をそういった風にとらえた
株式会社オオウエ 大上 博行氏
「高校時代は家業を継ぐのはイヤでした」と現在、株式会社オオウエで企画を担当する大上博行氏。和紙問屋の長男として育てられたが、思うところあって高校卒業後は東京の大学へ進学した。では、その気持ちが変わったのは、いつ、どういったきっかけだったのだろう。
大学時代は沢木耕太郎の『深夜特急』の世界に憧れ、アジアを旅する。シルクロードという響きにも惹かれた。一時番組制作の道を志すがその道も断たれ、秘境専門の旅行会社へ。月の半分は、中国やインド、パキスタンにいて、後の半分は日本で営業する生活が続き、いろいろな思いが交錯する。大陸の文化遺産を見るにつけ、日本の文化への思いが強くなってきたのかもしれない。日本文学や文化を伝えてみたいと教師の道にも興味を感じていた。そんな時、祖父から「会社に新しい風が必要だ。父親の仕事を手伝ってくれないか」との話があった。
「和紙の会社をやっていれば、何百、何千というお客様に日本文化のすばらしさやおもしろさが伝えられるのではないか、そう思いました。高校生の頃はイヤだった家業でしたが、大人になって見返すと実は尊いことをやっていたのだと気付きました」
和紙問屋から商品を作り、販売している理由
「2011年に入社して、始めは営業やルートセールスに明け暮れました。3年やりましたが少しも新規のお客様が取れない。途方に暮れました」
和紙問屋は、メーカーから紙を仕入れ、デザイナーや印刷会社に納める。印刷・加工と、商品は和紙問屋から離れて、エンドユーザーであるお客様の手元に届く。つまり、和紙問屋にはお客様がどんな和紙を求めているのかが伝わってこない。伝わってくるのは、和紙は高くて使いづらいという話ばかり。そんな状況を変えるために何をしたらいいか、そんなことを考えて2014年頃から、“生きた見本”として商品を作っていく。
「ユーモラスなイラストが印象的な“和紙田大學”※1や、和紙と活版印刷がコラボした“off”※2も、お客様と繋がり、お客様がどのような和紙を望んでいるのか、どうすれば和紙がもっと広まるか、それを知るために仕掛けたものでした」
2016年の12月からは、ネット通販の“うるわし”を始める
和紙メーカーも和紙を作るだけでなく、積極的に商品化やネット通販を手掛けているところも増えてきた。和紙問屋のネット通販は、それとどう違うのだろう。
「メーカーさんのネット通販は、もちろん自社製品だけです。ところが“うるわし”※3はオリジナル商品の他に他社製品も売っています。和紙問屋を長くやっている会社が、きちんと選んで、おもしろいと思える商品を載せるようにしています」
それは全国の和紙を扱っている和紙問屋としての知識や経験の証し。その眼で選んだお薦めの商品という訳だ。そういう用途ならここの和紙、これだとこんな和紙が良いと、用途に応じて幅広く勧めることができる。これは和紙問屋の強みに他ならない。
和紙にも手漉きと機械漉きがある。オオウエでは、機械漉きでも日本で漉かれていて、長い繊維のものを和紙として扱っている。それは適材適所の考えからだ。例えば、“和紙田大學”で扱っているポチ袋などの商品は機械漉き和紙でないとコストが見合わないし、バッグやブックカバー、クッションなど、丈夫さが必要なものは手漉き和紙に限る。使う人が用途や場面で使い分けができるように、これからも手漉き・機械漉き両方の和紙を取り扱っていく。
課題は、和紙に興味のない人をいかに引き付けるかです
2017年から始まった『紙博』などのイベントでも、“和紙田大學”は人気のブースの1つ。それはユーモラスなイラストの人気だけでなく、和紙を伝えていこうとする大上氏の熱い思いが伝わっているのかもしれない。
「和紙はその特性をよく知れば、もっと使ってもらえる素材」
これを伝えるためにも、イベントやネットでさまざまな情報を発信する。そして、もっと多くの人に和紙に対する興味や関心を持ってもらうことが課題と話を結んだ。
※1 和紙田大學
上質な和紙にシュールでとぼけたデザインをほどこす和紙プロダクト・ブランド。ポチ袋[コレッポチ]、ご祝儀袋[フトッパラ]、マスキングシール[おシール]などを展開。
※2 off
オオウエと活版印刷、デザイナーが生み出す和紙ブランド。「ボールペンで書ける和紙」「お札にぴったりの和紙」「メガネが拭ける和紙懐紙」など、使用目的に特化したプロダクトを展開。
※3 うるわし
和紙のオンラインストア。同時に、和紙が暮らしに役立つことやその裏側には和紙職人の技術があることを読みものとして伝えている。
株式会社オオウエ
大阪・四天王寺にある昭和23年創業の和紙卸商。オオウエが取り扱う数百種類以上の和紙は、担当者が全国の産地から直接買いつけを行い、用途に合わせて最適な和紙を提案している。また、全国の和紙メーカーと強固な関係を築いており、ニーズに応じた多種多彩な商品の開発にも取り組んでいる。
〒543-0052
大阪府大阪市天王寺区大道1-5-16
TEL:06-6771-7272
http://www.ooue.co.jp/