三味線の皮を和紙に代替するプロジェクト

柳川三味線 伝統芸能アーカイブ & リサーチオフィス
岐阜県産業技術総合センター

 京都の柳川三味線は、三味線の最も古い形であり、現在は京都でしか伝承されていません。明治以降は、大ぶりでさおも太い九州三味線が全国的に広がりましたが、いまでも祇園の芸妓が使っているのは柳川三味線といわれています。
ご存じのように三味線の胴皮には猫や犬などの動物の皮が使われていますが、現在では動物愛護法により入手が困難となってきています。また、三味線の胴皮は、使っていると劣化するので定期的な交換も必要です。このため、柳川三味線の演奏や伝承を行っている京都富道会大師範の林美恵子さん、林美音子さんと、伝統芸能アーカイブ&リサーチオフィスは、2018年より「柳川三味線のための胴皮新素材開発」プロジェクトを始めました。
 その目的は柳川三味線の胴皮を安定して供給していくために、和紙による代替品を開発することです。これが実現すれば、柳川三味線だけでなく全国にある他の三味線奏者にとっても朗報になると考えられます。

 プロジェクトは、和太鼓の胴皮を和紙でつくった前例を持つ岐阜県産業技術総合センターの協力のもと進められました。同センターの佐藤幸泰さんによると、紙料に樹脂などを加えて強度を高め、高温高圧でプレスした紙を使い、薄手から中間、厚手など厚さの調整や裏面を工夫しながら試行錯誤を重ねたとのこと。それを林美恵子さんの方で実際に三味線に張り、弾いてみては何度も作り直しを依頼しました。こうしたやり取りが8回ほど繰り返された後、ようやく成果が和紙胴「響」となって披露されることになりました。

佐藤さんと林さんは何度も調整を重ねた。佐藤さんと林さんは何度も調整を重ねた。

 

 2021年2月、京都芸術センターで開催された和紙胴「響」のお披露目では、和紙を張った三味線と従来の猫皮の三味線との聴き比べが行われ、その音色は多くの聴衆にも好評でした。また、京都市立芸術大学音楽部の津崎実教授による音響スペクトル分析の結果も発表され、それによると和紙の三味線の波形は、現在初心者用に使われている合成皮の三味線よりも猫の皮を使ったものに近いということがわかりました。
お披露目会の後、伝統芸能アーカイブ&リサーチオフィスに、他の地域で三味線を演奏する方から今後の流通に関しての問い合わせや、民俗芸能関係者からも問い合わせが来ているということです。

和紙胴「響」のお披露目会での林美恵子さん(左)と林美音子さん(右)。(撮影:大島拓也)和紙胴「響」のお披露目会での林美恵子さん(左)と林美音子さん(右)。(撮影:大島拓也)

 

 和紙胴「響」の三味線を演奏された林さんは、「和紙の音の方が体に入ってくるような気がします。私は和紙の方が柳川三味線に向いているのかなあと感じています」と語りました。和紙を使った柳川三味線は、現在流通に向けて、さらなる改善と調整をしているとのこと。伝統芸能を動物保護や循環可能な資源の調達で乗り切るプロジェクトは、これからも多くの方に注目されていくことでしょう。

右が猫皮、左が和紙を張った柳川三味線(撮影:大島拓也)右が猫皮、左が和紙を張った柳川三味線(撮影:大島拓也)

 

 


柳川三味線

三味線そのものを開発して最初の地歌作品「三味線組歌(本手)」7曲を作曲したとされている石村検校(?~1624)の弟子とも、孫弟子ともいわれている柳川検校(?~1680)が柳川流の祖。その後、三味線も少しずつは改良されているが、柳川三味線は京都のみで伝承されている。林美恵子は社団法人京都富道会大師範で、柳川流三味線の多数の門下生を育成する一方、各大学などで講師を勤め、地歌筝曲を後世に残す活動を積極的に行っている。また、林美音子も古典伝承はもとより、現代舞踊との共演を行うなど、柳川三味線を次世代へつなぐ活動に努めている。


伝統芸能アーカイブ & リサーチオフィス

(Traditional Arts Archive & Research Office 略称:TARO)

TAROは2017年から、伝統芸能の継承や保存、用具・用品とその材料の確保、普及・創造・発信活動など、伝統芸能文化の総合的な活性化の観点から、ネットワークの構築や基礎調査等を進めている。


岐阜県産業技術総合センター

岐阜県の産業技術総合センターは『モノづくり技術』に関する総合的な研究開発・技術支援の拠点として、多種多様な技術相談に対応する他、各分野の独自技術の複合化や異分野との連携・融合により新技術・新製品の開発を支援している。

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