合掌造りに育まれた手仕事のカタチ
五箇山 和紙の里 東秀幸氏
五箇山和紙は、富山県と岐阜県の県境にある合掌造りの集落で生産されてきた。江戸時代には加賀藩の献上品として手厚く保護されていたという。
「昭和30年代までは各家庭で紙を漉いていました。あの頃はどの家も合掌造りで、土間が作業場だった」と、五箇山和紙の里の館長、東秀幸氏は懐かしむ。
伝統技法で守る“白”の世界
五箇山和紙の原料の主役は、昔も今も地元の畑で栽培する「五箇山楮(ごかやまこうぞ)」だ。白い紙に仕上げるための漂白も、雪面に楮を並べる昔ながらの「雪晒し」で自然にまかせる。薬品も機械も使わない。東氏は手仕事を信条に、100年たっても色あせず、しなやかな紙質を保つ五箇山和紙の特徴を守ってきた。
「五箇山和紙は障子紙から始まったので、白い紙を作る技術を磨いてきました」
この道30年の伝統工芸士でもある東氏は、障子紙や加賀藩時代からの規格品「八寸紙」などの白い紙を漉いている。
「自分で作った障子紙は、家でも使ってみます。やっぱりガラスとは違いますよ。障子を通して入ってくる光には、ふくらみがありますから」
最近は住宅事情の変化で和室が減少している。東氏は、“和”の空間で培われてきた繊細な感性が、日本人から失われつつあることを残念がる。ガラスで和紙をはさんだ「合わせガラス」を作り、2階の展示室で紹介しているのも、五箇山和紙の真髄を伝えたいからだ。
失敗をおそれずチャレンジした新ブランド
「うちでは、お客さんの声を商品づくりに生かしてきました。スタッフは事務や販売も含めて12名いますが、自分たちの考えだけでは、ニーズをつかみきれないので……」
製法は頑なに守るが、商品開発では伝統にこだわらない。この柔軟な姿勢が「Aquwa」、「Chin Chiro」、「FIVE」という3タイプのシリーズ商品を生んだ。
Aquwaでは、透明なアクリル樹脂で和紙を包んだピアスとイヤリング、ギフトボックスを用意した。アクセサリーを純白のギフトボックスに収めると、雪国の冬祭り会場に置かれた氷の花彫刻のように見える。アクリルと和紙。対極的な素材の組合せも、ニーズを意識すればこそ。Chin Chiroシリーズに至っては、水色、黄緑、ピンクなどのカラフルな色を使った市松模様のデザインで、ブックカバーやカードケース、大小さまざまな箱を商品化させた。
「新しい分野で冒険すると失敗するかもしれませんが、お客さんの声は大事」と話す東氏が、とりわけ力を入れているのがFIVEだ。このブランドは、武蔵野美術大学出身の石本泉氏が担当する。大学生活最後の夏休みに仲間と五箇山を訪れ、「昔話に出てくるような環境」が気に入り、東京から移住してきた。大学では木工を専攻していた。
「FIVEは、外部のデザインユニットとコラボで立ち上げました。これまでの和紙の感覚にはとらわれず、和紙の可能性を探っています」と、石本氏。
カードケース、文庫本カバーなどのグッズが中心だ。いずれも美しい色合いとデザインで、民芸調の和紙小物とは一線を画す。
石本氏に五箇山和紙の魅力をお聞きすると、即座にこう答えた。
「光の空間を生み出せるのが魅力ですね」
合掌造りの家に欠かせない障子紙。障子の淡い光を愛する東氏の影響を受けているのだろうか。FIVEシリーズも発色が美しく、見ているだけでホッとする。今後はインテリア関連の製品も手がける予定だ。美しい光の空間を期待したい。
東秀幸
1956年、五箇山生まれ。家業の紙漉きを見て育つが、高校卒業後は富山市内で就職。
27歳のときにUターンし、手漉き和紙の世界へ。財団法人五箇山和紙工芸研究協会の設立時から紙漉き職人として関わり、後に伝統工芸士の認定を受ける。
五箇山和紙の普及と後身の指導にあたりながら、新作の開発にも力を注いでいる。
五箇山 和紙の里
- 〒939-1905
- 富山県南砺市東中江215
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- 営業時間
- 9:00〜17:00(紙漉き体験は16:30まで)
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- 定休日
- 12月29日〜1月3日
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- 0763-66-2223
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