自分の“強み”を求め、苦労してたどり着いたアクセサリー

京竹籠 花こころ 小倉智恵美氏

 直径8cm程度の竹が縦二つに割られ、また二つに、さらに四つに。ナタひとつで、どんどん細くなり、幅約1mmの竹ひごになるまで3分もかからなかった。それを幅を揃え、面取りをし、厚みを揃えて、滑らかな素材が次々と生み出される。リズミカルで、無駄のない手の運び…
 「高校を卒業して伝統工芸専門学校に入った頃は、ナタが竹に入りませんでした。力の入れ具合も分からなかったし、何度もケガをしました」
 京竹籠 花こころの小倉氏は、作業の手を止めず呟いた。

竹ひごの製作:見る見る太い竹が細くなっていく

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    厚みを揃える

 

 

自然とものづくりが好きな子どもだった

 神奈川に生まれ、ごく普通の家庭に育った小倉氏が、なぜ竹工芸を志したのだろう。
 「身近に自然がある環境で育ったので、草花を摘んで押し花にしたり、ドングリや松ぼっくりでリースをつくるのが好きでした。がんばってできたものが、形として残るということにも魅力を感じていました」
 それでは、それがなぜ竹に結び付いたのだろう。
 「竹は成長が早く、日本の風土に合った植物です。水や肥料を与えなくても勝手に伸びてくる。すごく生命力が強い上に、エコロジーであることにもひかれました」
 以前から環境問題に関心を持っていた小倉氏は、こうして竹工芸の道に入ることを決めた。

籠を編んでいくようす籠を編んでいくようす

作品をつくっても、自分の名前では売れない

 京都といえども竹工芸の職人さんの数は多くない。専門学校で竹工芸の基本的な技術を学んだ後、親方に弟子入りできたのはごく少数。残った仲間で工房を立ち上げた。無論、他の仕事を掛け持ちしながら…。
 「竹籠店に勤めている仲間から仕事をもらい、花籠や茶托などのテーブルウェアをつくりました。またグループ展やデパートの展示即売会にも出展しましたが、老舗の竹籠店の名前だと売れます。でも私個人の名前だとなかなか売れない。悔しい思いをしました」
 工房の仲間たちもそれぞれ別の道を歩み始め、小倉氏も2011年に独立。たったひとりで新たな道を模索し始めた。

作品に手をとる小倉氏作品に手をとる小倉氏

京都職人工房で大きな気付きを得る

 “希望”は意外にも自宅の近くにあった。2012年に開講した京都職人工房だ。「売れるモノを作れる職人を育てる」というキャッチコピーに引かれた。デザインや文章の書き方、ビジネスプランなどの講義があったが、何よりも小倉氏の興味を引き、期待したのが商品開発の授業。商品を開発するにはどういうプロセスが必要か、どのような考え方を基にデザインしていくのか、また価格はどうするか。競合はどうしているか。こうしたマーケティングの基礎ともいうべき、商品開発には欠かせない事柄を改めて学んだ。
 「講師の方からいろいろとアドバイスをいただき、多くの気付きを得ることができました。まず自分の強みは何かということから考えました。そしてそれを活かすには、何ができるか。0.1mmとか0.05mm単位の竹で繊細な編み方ができます。ならば、竹を使ったアクセサリーはどうだろう。それが強みになるかもしれないと思ったのです」
 そして、今どんなアクセサリーが受けているのか、どんなデザインが人気あるのか、それを自分なりにリサーチするために、展示会やビッグサイトでの見本市、東京のセレクトショップなどを見て回った。
 「いままでにない新しいアクセサリーを作るためには、これまで培ってきた竹工芸の技術が多いほど役に立ちます。ですから、強みを持つことと同時に基本的な技術を高めていくこともやはり大切なのだと痛感しました」
 16年前、専門学校卒業後すぐに職人に弟子入りすれば、安定した道にもっと早くたどり着け楽だったかもしれない。ただ、小倉氏のようにひとりで悩み、模索したからこそ得られたものもあり、それが今の作品に結実している。そういった意味で弟子入りされなかったことが、かえって良かったのではないだろうか。

作品1作品1
作品2作品2

他の工芸とのコラボレーションや海外の展示会で可能性を広げていきたい

 陶芸家の淺野有希子氏とのコラボでは、陶芸と竹工芸とのマッチングで苦労した部分もあったが、出来上がりは唯一無二のもの。磁器に描かれた花に合うようなデザインや編み方を工夫した。学ぶことも多く、可能性も広がったと感じた。
 「相手やその作品に対するリスペクトはもちろん、どうしたら作品をいいものにしていけるか、何度も話し合いを重ねながら、これまでになかった技法も模索しました」
 過去にはパリやポートランドでの作品展にも参加した。コロナ禍で遅れているが、ロンドンでの出展計画もある。またテレビのNHKワールドでも今年4月に取り上げられた。竹はいま持続可能な素材として、ビニールに代わり世界でも注目されている。こうした流れは、これからの小倉氏の作品作りに可能性を広げていくはずだ。

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京竹籠  花こころ 小倉智恵美

京竹籠 花こころ 小倉智恵美


京竹籠 花こころ 小倉智恵美

神奈川県出身。2004年京都伝統工芸専門学校(現・大学校)竹工芸専攻卒業。2011年には自身のブランド「京竹籠 花こころ」を立ち上げる。2014年、パリで開催された「ジャパン・エキスポ」で注目され、バングルやリングなどのアクセサリーや繊細な編み方のテーブルウェアが人気を呼び、新たな注文は1年半待ちという。

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jaen