未来志向の ゼオライト和紙が演出する和の世界
りくう 佐藤友佳理氏
佐藤友佳理氏の和紙工房「りくう」は、名水百選「観音水」が湧く愛媛県西予市明間にある。田んぼに囲まれた木造の作業場で、純白のモビールが静かに揺れていた。和紙といわれなければ、レースと間違えてしまいそうだ。紙を漉くための巨大な水槽が置かれた作業場を見回すと、木枠に和紙糸を張った立体的なモビールも吊り下げられていた。
地域復興を賭けた和紙がインテリア業界の評判に
モビールの素材は、ゼオライト和紙という特殊な和紙。開発したのは、愛媛県産業技術研究所と佐藤氏の父親が経営していた建築会社だ。ここ内子町五十崎は、古くから紙漉きが盛んで、小学校の卒業証書も自分で漉いたという。しかし、紙漉きは廃れる一方だった。2009年、桑沢デザイン研究所に通っていた佐藤氏は、「ゼオライト和紙による五十崎町の和紙復興プロジェクト」に関わった。鉱石のゼオライトには、吸着・脱臭・調湿などの作用があり、この溶液にコウゾを混ぜて漉くと「呼吸をするゼオライト和紙」ができる。佐藤氏は、このプロジェクトの商品デザインに携わった。
「ゼオライト和紙は従来の手法とは異なり、糸を張り巡らせた木枠を使って漉きあげます。糸をかける手法は他の方が考え、私が改良してレースのような表情を持つ紙になりました。伝統的な紙漉きの手法ではありませんが、和紙という素材の良さを伝え、和紙の可能性を広げたいと思って……」
ゼオライト和紙は、復興プロジェクトの成果発表のために作った。そして、これがインテリアデザイン界の大御所、内田繁氏の目に止まり、仕事の依頼を受けた。オーダーは立て続き、佐藤氏はゼオライト和紙の可能性を追求するようになった。
自然からのインスピレーションでデザイン
うっすらと透け、軽やかな風合のゼオライト和紙は、衝立のように大きなものでも圧迫感がなく、淡雪のような美しさで空間を演出する。工房には、女性誌や中学校の数学の教科書などで取り上げられているモビールはもとより照明、キャンドルスタンド、一輪挿しなどインテリア用の小物もあった。その中には、カーモデラーの仕事をする夫との共作もある。
「夫は3Dプリンターを扱うので、『紙の一輪挿し』や『和紙照明Dress』の形状を作りだすのに、力を借りました。おかげで、立体的なものも作れるようになりました」
一輪挿しは、天井から吊り下げるとモビールのように揺れる。和紙糸を5ミリ間隔で張った和紙照明は、数枚の木枠を夫が作ったジョイントでつなぎ合わせた。
「和紙照明を見たオーストラリア人の植物学者さんから、植物の細胞に似ていると驚かれました。全くの偶然です。でも、私は自然から受けたインスピレーションでモノを作るようにしています」
佐藤氏は高校卒業後にロンドンで暮らし、モデルとしてCMや雑誌で活躍していた時期があった。佐藤氏の和紙製品には、その経験も活きている。
「感情とか感性とか、エモーショナルな部分を表現するのがヨーロッパ人は得意です。私も和紙を媒介にして、昔おばあちゃんの家の座敷には障子があったなぁみたいな、日本人のDNAに刻まれているであろうエモーショナルな部分に働きかけられるようなモノを作りたい。例えば、モビールを見て癒やされるということが、すでに、その人の感情に働きかけていることなのかなぁと思う。見たり触れたりした人の精神によく作用するモノを作ることが目標です」
21世紀のテクノロジーと伝統の技が生んだゼオライト和紙は、和紙の未来をやさしく見据えている。
佐藤友佳理
愛媛県生まれ。ロンドンでモデルとして活動後、桑沢デザイン研究所(東京)でビジュアルデザインを学ぶ。在学中に五十崎の和紙復興プロジェクトに関わり、「ゼオライト和紙」の商品開発をはじめる。2012年に和紙工房「りくう」を立ち上げ、製品開発とともに、百貨店、海外などでのイベントを通じて、和紙のある生活空間を紹介中。
りくう
- 〒797−0010
- 愛媛県西予市宇和町明間1093
- TEL:0894-89-1276
- http://www.requ.jp