築120年の町家には色鮮やかな和傘が並ぶ

長良川てしごと町家CASA  河口郁美氏

街づくりのNPOが和傘に注目した理由とは

 7月末、鵜飼客で賑わう長良川。その船着場近くの湊町に、長良川てしごと町家CASA(以下CASAと表記)はある。昔の面影を残す街並みがきれいに整備され、そぞろ歩く観光客の姿も見える。
 「私たちは、3年くらい前からこの通り沿いの長良川デパートという店舗で、長良川流域の手仕事を集めたお店もやっているのですが、そこで扱う商品の一つが和傘でした。でも、和傘について知れば知るほど生産が危機的な状況にあること、岐阜が日本一の和傘の産地であることがよく知られていないことに驚いたのです。そこで本格的に取り組もうと、去年古い町家を改装して、和傘だけを独立させたCASAをつくったのです」
もともとこの地は長良川の水運の要地。流域でつくられたモノが集められ、下流に出荷される。また海産物は下流からこの地に運ばれてきた。その流通の拠点に注目し、街づくりのNPOが長良川デパートやCASAを設立。店長の河口氏は、その目的を岐阜が誇る工芸品を全国の方に知ってもらい、その価値を高め、街が活性化することと語る。

画像の代替テキスト店内には、番傘、蛇の目傘、日傘がディスプレイされている

岐阜は工芸の産地でもあった

 「長良川流域では竹が豊富に取れました。ですから岐阜の工芸品というと、和傘、提灯、うちわと竹が大切な役割を担っています。そして美濃和紙も船で運ばれてきます。長良川があったからこそ、こうした工芸の産地になったのだと思います」
美濃和紙と竹が出会い、和傘が生まれた。しかし、それは偶然ではない。岐阜市内の加納地区にあった加納藩で和傘の生産が奨励され、下級武士が内職として和傘づくりに勤しんだとされる。裏長屋で貧しい武士が傘張りをしている光景は、まるで時代劇のようだが実はそれが現実だったようだ。
 「昭和20年代のピークの頃は、加納地区に住んでいる方の誰もが和傘に関わっていたようです。和傘500本くらいを一挙に天日干しにしている風景が加納のあちこちで見られました。それが加納の風物詩でしたが、今ではせいぜい20~30本くらいでしょうか」
昔は600軒あった和傘問屋も、今は3軒のみ。そこから独立した傘職人さんもいる。

開いたときに感じる、和傘の美しさと精緻さ

和傘を買っていくのは圧倒的に男性が多い!?

 オープンしてからまだ1年余りのCASAだが、地方局のテレビなど各種メディアによって着実にお客は増え、中部圏だけでなく関西、関東からのお客も来るという。
 「ネットで検索して買いに来るお客様も多いです。ぶらっと立ち寄るのではなく、初めから買う目的でお越しになります。私の実感としては7割が男性客ですね」
男性客は自分で使ってみたいという興味と、女性にプレゼントしたいというパターンもあるらしい。カップルで来店しても、熱心に商品を見るのは男性で女性は遠目で見ているだけとのこと。実用ばかりでなく、インテリアとして買い求める方も多い。
 「海外のお客様で感動して購入していただけるのは、ヨーロッパの方、特にイタリアやスペインの方が多いです。取材でもよく、外国の方に喜ばれるのではと聞かれますが、あまりそんな実感はないですね。圧倒的に日本の方に喜ばれています」

切り込みの多いろくろ部分も長良川流域のエゴノキからつくられる

岐阜和傘のブランドの確立と、後継者育成が重要な課題

 和傘はほとんど岐阜で売られることはなく卸に徹し、つくられる端から東京や京都などに送られていった。
 「岐阜はこれまで和傘の産地だということをアピールしてきませんでした。例えば、提灯は『岐阜提灯』というブランドがありますが、『岐阜和傘』というブランドはありません。そして大量生産の分業システムを取っていたため、軸や骨、ろくろ、持ち手などの部品を仕入れて仕上げまでできる職人は、現在お二人ぐらいしかいません。また、その繊細な部品をつくる職人さんも後継者がいないという状況です」
このままではいけないと和傘問屋も和傘を守っていこうと新たな組合を立ち上げようとしている。そして、後継者育成に本格的に乗り出す。
 「もし和傘がなくなっても日常の暮らしではあまり困らないでしょうが、日本の伝統芸能はどうでしょう。歌舞伎や日本舞踊、野点、神社仏閣、舞妓さんや芸妓さんなどの周りから和傘が無くなってしまうことを意味するのです」
つまり、それはある意味日本文化の危機ともいえる。これ以上、和傘を取り巻く状況を悪くさせてはいけない。だから、CASAは和傘の良さと伝統を守る大切さを伝え、後継者育成にも力を注ぐ。河口氏は最後にこう結んだ。
 「職人さんたちにはつくるのに専念していただいて、PRや販売は私たちでしっかりやっていきます」


長良川てしごと町家CASA

築120年の町家にある全国で唯一の岐阜和傘専門店。蛇の目傘、番傘、日傘と常時100本近く取り揃えており、日本の和傘の8割を作る岐阜の地で和傘の文化継承や後継者育成を図っている。同じ町家内には、ORGAN活版印刷室や写真撮影のスタジオ、提灯のショールーム、ワークショップ用のスペースなどがある。

岐阜市湊町29
Tel:090-8335-9759(和傘CASA)
定休日:11:00~18:00  火曜・水曜定休
https://www.teshigoto.casa/

長良川てしごと町家CASAでは、AKARIも展示
世界的な彫刻家のイサムノグチが、1951年岐阜の川原町に来訪。岐阜提灯と出会い、1時間で4つのスケッチを描き上げる。それは、今までになかった斬新な提灯のデザインだった。AKARIと名付けられたその提灯は、株式会社オゼキで製品化され、今もそのままのデザインで柔らかい光を放っている。

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