活字文化を支えてきた活版印刷の面白さを 無くしてしまうのはもったいない
ORGAN活版印刷室 直野香文氏
全くの素人だったが、10年間続けてきた
長良川てしごと町家CASAには活版印刷室がある。それがORGAN活版印刷室だ。作業されている方は、NPO法人ORGANの代表・蒲氏の妹さんの直野氏。蒲氏がデザイン事務所をやっている関係で、廃業する知り合いの活版印刷屋さんから活版印刷機一式を譲り受けた。
「社内で活版印刷をやるので、私にやってみないかと声がかかりました。私自身、活版印刷はもちろん、印刷やデザインの知識も全く無かったのですが、いろいろな方に教わりながら、見よう見まねで始めました。最初は1日に1〜2件くらいしか仕事がなかったので、じっくり取り組むことができました」
活版印刷のブームも追い風にしたい
今は名刺を中心に、カードやしおりも扱っているという。
「活版印刷は和紙と相性がいいので、美濃和紙を使った名刺が多いですね。もらって印象に残るし、案内状なども特別な感じがします」
こうしたオーダー仕事のかたわら、雑貨の制作も続けている。例えば、レターセットや小さなカード類、そして活版印刷した活字を使ったピアス。これが“東京のみの市”などのイベントでは女性に人気とのこと。
「この間のイベントでもイベント中に在庫が無くなり、作りながら売っていました。紙製なので金額も高くないので、気軽に買ってくださいます」
美濃和紙を8層くらいに重ねた材料で作ったアクセサリーもある。これだとロウやニスを塗ることなしに和紙や活版の良さをアピールできる。
「今は若い人たち中心に、活版印刷がブームとなっています。活版印刷が印刷としてよりもアートとして受け入れられているのでしょう。このブームに乗っていきたいですね」
ワークショップでも人気の活版印刷
ORGAN活版印刷室はワークショップも行っている。参加者は8割が女性で年代的には30~40代が中心。参加者はデザインから印刷まで体験することができる。
「昔は新聞や雑誌も活版印刷だったという話をすると、皆さん驚かれます。細かい文字を組むことがいかに大変かも感じているようです」
活版印刷が全盛期だったのは何十年も昔のこと。今は活字つくる職人さんもいなくなっている。だがORGAN活版印刷室で使っている印刷機自体はシンプルな機械なので、電子部品があるわけでもないし、壊れない。ほとんどメンテナンスの必要もないという。
「私たちがイベントに出店するのは、横のつながりを増やしていくことと、活版印刷への認知度を上げていくという目的があるからです。若い人に、日本の活字文化を支えてきた活版印刷の味わいや面白さをもっと知ってほしいと思います」
活版印刷のブームというのは、単なるノスタルジーではない。デジタルでは伝えきれない“何か”、文字の陰影、紙の手触り・質感など感性に響くものを、活版印刷はきっと伝えているのだろう。ORGAN活版印刷室も、美濃和紙とのマッチングの良さや斬新なアクセサリーへの応用などをテーマに、今後も個性的で温かみのある印刷物をつくり続けていくだろう。
ORGAN活版印刷室
長良川てしごと町家CASAの一画にある活版印刷工房。廃業された紙問屋さんから、活字や活版印刷機などの備品を譲り受けたところから始まった。ワークショップも行い、貴重な活版印刷体験を伝えている。