和紙の持つ魅力を引き出せるような 仕事をしていきたい

Warabi paper company(大光工房) 千田崇統氏

 東京での大学生活や卒業後のロンドン、ペルーでの滞在を経て、都会での暮らしよりも地方で地に足の付いた仕事をしていきたいと考えた千田氏。料理などのアルバイトを重ね、和紙の里会館に努めたのが和紙との関わりの始めだった。

師匠を雇うという、思ってもみなかった展開に

 和紙の里会館で紙漉き体験のガイド役として勤めた後、28歳の時に今の師匠が後継者を探しているとの情報に接し、思わず手を上げる。それは偶然だったが、運命のようにも感じた。
 「アルバイトで一般の方に紙漉きを教えていたので、初歩的な知識はありました。師匠の元で3年弱の修行を積んだ後、師匠からやっていきなさいと言われたのです。それは後継者として仕事をすることイコールこの工房を買い取り、オーナーとして私(師匠)を雇ってください、ということでした。これには驚きました。180°立場が変わるなんてことは全く予想していなかった。ですが同時に腹を決めるしかないと思いました」
その時、千田氏は結婚もしていたし、お子さんもいた。選ぶべき道は、他に無かった。

美濃和紙のポテンシャルは限りない

 美濃和紙の特長は、白さ、きめ細かさ、透かした時の美しさ。無地の紙だけでなく、個性的な紙もあるので、それも面白いところだと千田氏は語る。
 「職人さんと作家さんは違うとよく言われますが、プレーンな紙を毎日同じように漉いていきたいという思いと、この一枚しかないといった一点ものの紙を漉きたいという思い、正直どちらも魅力を感じます。自分としては、和紙自体が持つポテンシャルはものすごいものがあると思っていて、それをもっと引き出したい。そうすれば、見る方はもっと和紙に対して違う意識で接することができるかなと思います」
それは、モノを書いたり、モノを包んだりする役目だけでなく、和紙の使われ方で人の意識は確実に変わってくると続けた。
 「人の手が入ることによってエネルギーが加わり、例えばアートのように昇華させられるものになっていけばいいなと思っています」
 取材の前々日、2020年東京オリンピック・パラリンピックの表彰状に、美濃和紙を使うことが発表された。ユネスコの文化遺産に登録された美濃和紙が、さらに世界的に注目がされるだろう。これは、和紙全体にとっても朗報に違いない。

取材当日はお一人で作業をされていた。工房には絶えず音楽が流れている

自然の恵みにも深く関わっていきたい

 水が豊富な美濃市蕨生地区。超軟水で不純物も少なく、紙漉きには最適の水だ。地下水が至る所から湧き、霧も多い。
 「隣近所が紙漉きをしていても水に不自由はしませんでした。この環境があるから紙漉きの仕事ができたのです。原料の楮も蕨生や穴洞で美濃楮を栽培しています。地産地消ではないですが、やはり地元で採れた原料を使いたいという思いがあります。それはつくる人の顔が見える安心感と、その楮の特長をよく知っている強みにもなると思うのです」
この楮づくりは、これまで高齢の方が5人で行ってきたが、このままではいけないと千田氏も関わり始めた。今では穴洞地区の楮組合支部長として先頭に立つ。
 「ボランティアさんも募集とかしているのですが、来ている方はボランティアの意識できているのではなく、畑仕事や楮が好きでとか、楮のファンみたいな方もいて、手伝うというより主体的に来られる方が多いです。うれしい誤算でした」
 楮に関しては千田氏には一つの夢がある。それは津保川流域に自生している楮、津保草を使うことだ。
 「昔は津保草を使って本美濃紙を漉いたといわれています。今は津保草の量も少なく、津保川流域から仕入れることもできないので、紙を漉くことはできない。幻の紙となっていますが、これをつくれたら歴史がつながります。ロマンがあると感じています」


オリジナリティあふれるご自宅の障子紙

千田崇統

千田崇統

美濃楮の使用100%を目指して地元での楮の栽培から携わり、安心して使えることはもちろん、さまざまな場面でお客様のご要望に応える紙づくりを行う。部屋や店鋪のインテリアから内装、アートワークまで幅広く、独自性があり創造性をかき立てられるような和紙を提供している。


Warabi paper company(大光工房)


工房の近所を流れる板取川。アユ釣りの名所でもある
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jaen